
ビジネスメールや案内文を書いていると、「お知りおきください」と書きたくなる場面はありませんか? 便利そうな表現ですが、「目上の人に使っても失礼にならないかな?」と、送信ボタンの前で手が止まってしまう方も多いようです。
結論からお伝えすると、「お知りおきください」は正しい日本語です。ただし、上司や取引先など特定の相手に使うときは、ひと工夫したほうが安心です。
この記事では、意味や使い方から、失礼にならない言い換えまで、例文を交えながらやさしく解説します。
「お知りおきください」の意味と、正しい日本語かどうか
「お知りおきください」は、「覚えておいてください」「心に留めておいてください」という意味の表現です。
ポイントは「おき」の部分です。ただ「知る」だけなら、一度知ればそれで終わりですよね。でも「知っておく」と言うと、知ったうえで、その後も頭の片隅に置いておくという意味合いが加わります。たとえば「来月から受付時間が変わります」という連絡なら、今回だけでなく、これからも覚えておいてほしい、という気持ちが込められているわけです。
「こんな言い方は間違いでは?」と心配になるかもしれませんが、間違いではなく、ビジネスの場でも広く使われている表現ですので、安心してください。
書くときは、「お知りおきください」とひらがなで書くのが一般的です。「下さい」と漢字で書く方もいますが、ほかの言葉に添えて使う「ください」は、ひらがなにするのが基本とされています。
また、よく似た言葉に「お見知りおきください」があります。こちらは「お知りおき」とは別の言葉で、初対面のあいさつなどで「私の顔や名前を覚えてくださいね」と伝えるときに使います。「今後ともお見知りおきください」のように、自己紹介の場面で登場する表現です。
「お知りおきください」は丁寧語?尊敬語?敬語の種類をやさしく整理
「丁寧語なの? それとも尊敬語?」と気になる方も多いと思います。
「お知りおきください」は、「お+動詞+ください」という形をしています。「お待ちください」「お読みください」と同じ仲間ですね。この形は、相手の行動を高めて言う尊敬語の形にあたります。
そのため、「丁寧語ですか?」という疑問には、「丁寧な言い方であり、形の上では尊敬語」とお答えするのが近いでしょう。言葉づかいそのものは、きちんと敬意をふくんだ表現です。
ただし、ここで少し注意が必要です。文の終わりが「ください」ですので、中身は「〜してください」という依頼、つまり相手に何かをお願いする言い方です。敬語の形をとっていても、相手に行動を求めているという点は変わりません。
「敬語だから、どんな相手にも失礼にならない」とは限らない、というのが、この表現のむずかしいところです。
目上の人に使うと失礼?相手別の目安
「お知りおきください」が失礼と言われる理由は、「知っておいてください」という、一方的な指示のように聞こえてしまうからです。敬語の形はしていても、相手からすると「上から言われている」と感じることがあります。
ただし、すべての相手にNGというわけではありません。目安は次のとおりです。
| 相手 | 目安 |
|---|---|
| 上司・先輩 | 避けるのが無難 |
| 取引先(特定の担当者) | 避けるのが無難 |
| お客様(特定の個人) | 避けるのが無難 |
| 先生・恩師 | 避けるのが無難 |
| 同僚・部下 | 使ってもOK |
| 不特定多数(社内掲示、お客様全体への案内など) | 使いやすい |
特定の目上の相手に、名指しで使うのは控えたほうが安心です。一方、誰か一人に向けたものではない告知文なら、指示された感じが薄れるので、失礼になりにくいのです。
迷ったときは、「相手に何かをしてもらう連絡か、情報を知らせるだけの連絡か」を考えてみてください。後者で、しかも相手が特定の目上の方でなければ、使っても問題になりにくいでしょう。
とはいえ、「この相手は微妙かも」と迷う場面では、無理に使う必要はありません。言い換えを使えば、迷わず伝えられます。
使ってよい場面と例文
使いやすいのは、特定の誰かではなく、みんなに向けて知らせる場面です。ここでは、場面ごとの例文を見ていきましょう。
■社内の掲示・連絡
「会議室は18時に施錠されますので、お知りおきください。」
「来週月曜は、ビル全体の点検のためエレベーターが停止いたしますことをお知りおきください。」
■お客様全体への案内
「年末年始の営業は12月30日までとなりますので、お知りおきください。」
「当店の受付は17時で終了いたしますことをお知りおきください。」
■同僚や部下への連絡
「来月から経費精算の締め日が変わるので、お知りおきください。」
どの例文も、「これからも覚えておいてほしい情報」や「事前に知っておいてほしい変更点」を伝えています。「お知りおきください」は、相手に何かをしてもらうためではなく、状況を知らせておきたいときに向いている表現なのです。
書くときのコツは、「何を知っておいてほしいのか」を先にはっきり書くことです。「〜ことをお知りおきください」のように、内容を前に置いてから添えると、読み手が迷いません。理由を短く添えておくと、さらに親切ですね。
失礼にならない言い換え表現
迷ったときは、言い換えれば安心です。まず覚えたいのが、依頼の形に直す方法です。
「お知りおきください」→「お知りおきいただけますと幸いです」
「〜してください」という指示から、「〜していただけるとありがたいです」というお願いに変わるので、やわらかく伝わります。これなら上司や取引先にも使いやすくなります。
ほかの言い換えは、伝えたい気持ちで選びます。
| 表現 | こんなときに |
|---|---|
| お含みおきください | 事情をくんだうえで、心に留めてほしいとき |
| ご承知おきください | 決まったことを、はっきり知っておいてほしいとき |
| ご了承ください | 相手に不都合があり、理解と了解をお願いしたいとき |
たとえば、納期が少し遅れそうなときは、知らせるだけでなく了解も必要なので「ご了承いただけますと幸いです」が合います。「念のため頭に入れておいてほしい」くらいなら「お含みおきください」がぴったりです。
ここで注意したいのが、「ご承知おきください」も目上の人には不向きだということです。「お知りおきください」と同じく、知っておくよう求める形なので、言い換えたつもりが同じ問題を抱えてしまいます。上司や取引先には、「〜いただけますと幸いです」の形を添えるのがおすすめです。
「お知りおきください」と書かれたメールを受け取ったら?
反対に、自分が「お知りおきください」と書かれたメールを受け取ることもありますよね。
基本的に、単なる案内や告知であれば、返信は必須ではありません。ただ、取引先や上司からの連絡で、内容を確認したことを伝えておきたい場合は、短く返しておくと感じがよいです。
「ご連絡ありがとうございます。承知いたしました。」
「ご案内いただき、ありがとうございます。内容を確認いたしました。」
返信では、「了解しました」ではなく「承知いたしました」を使うのが、ビジネスでは無難です。「了解」は目上の人に使うとくだけた印象になるためです。
なお、スケジュールの変更など、こちらの対応が必要な内容が含まれていたら、「承知いたしました」だけで終わらせず、対応する旨も添えておくと親切です。
「承知いたしました。当日は10分早めに伺います。」
相手が「お知りおきください」と書いてきても、こちらが気にする必要はありません。丁寧に一言返すだけで、十分に礼儀は伝わります。
まとめ
言葉づかいに迷うのは、相手への気づかいがあるからこそです。その気持ちがあれば、多少言い回しがぎこちなくても、きちんと伝わります。
迷ったときは、「お知りおきいただけますと幸いです」と書き添えておけば、安心して送れますよ。
