
取引先や顧客から、すぐには答えられない質問を受けたとき——そんな場面で咄嗟に出てくるのが「お答えできかねます」という表現ではないでしょうか。
ただ、使いながら「これって正しい日本語なのかな?」と少し引っかかった経験はありませんか? 実はこの表現、「二重表現ではないか」という指摘があることで知られています。
この記事では、「お答えできかねます」が正しいかどうかという疑問にまず答えたうえで、「お答えいたしかねます」「お答えしかねます」との使い分け、ビジネスシーンで使える例文、メールの書き方、印象を悪くしない断り方のコツまでをまとめて解説します。
「お答えできかねます」は正しい日本語?二重表現問題を解説
「お答えできかねます」を使っていて、「なんとなく変な気がする」と感じたことがある方は、実は正しい感覚を持っています。この表現には、文法上の指摘が入ることがあるからです。
問題になるのは「できかねます」という部分です。「かねる」は動詞の連用形につくことで「〜することができない」という意味を持つ補助動詞です。つまり「できかねる」は「できる+できない」という意味が重なった形になり、二重表現だという指摘があります。
ただし、「お答えできかねます」は現在のビジネスシーンで広く使われており、相手にも違和感なく伝わるのが実情です。言葉は時代とともに変化するもので、慣用的に定着している表現を一律に「誤り」とは言い切れない面もあります。
では実際にどうすればいいのかというと、自分から使う表現としては「お答えいたしかねます」を選ぶのが無難です。「いたしかねます」は「いたす(する)+かねる(できない)」という構造で、二重表現の問題がなく、かつ敬意も高い表現です。
「お答えできかねます」を相手に言われた場合は、意味が通じる表現として問題なく受け取ってください。自分が使う際は、より正確な「お答えいたしかねます」を選ぶと安心です。
「お答えできかねます」「お答えいたしかねます」「お答えしかねます」の違いと使い分け
「お答えできかねます」と似た表現として、「お答えいたしかねます」と「お答えしかねます」があります。どれも「答えられない」という意味は同じですが、丁寧さとニュアンスに少し違いがあります。
お答えいたしかねます
「いたす」という謙譲語が入るぶん、三つのなかで最も丁寧な表現です。取引先や顧客など、社外の相手に対するメールや文書でも違和感なく使えます。ビジネスシーンで迷ったら、この表現を選んでおくのが最も無難です。
お答えしかねます
「する+かねる」のシンプルな構造で、文法的にもすっきりしています。丁寧さは「いたしかねます」よりやや控えめですが、日常的な口頭のやり取りや、社内の上司への返答にも自然に使えます。
お答えできかねます
先ほど触れたとおり、二重表現の指摘がある表現です。ビジネスで広く使われているため意味は通じますが、自分から使う場面では上の二つのどちらかに置き換えるとより安心です。
まとめると、使い分けの目安は次のとおりです。
- 社外・フォーマルな文書・取引先 → お答えいたしかねます
- 社内・口頭・比較的カジュアルな場面 → お答えしかねます
- 相手から言われた場合 → 意味は通じるのでそのまま受け取ってOK
ビジネスで使える場面別の例文
「お答えいたしかねます」を実際のビジネスシーンでどう使うか、場面別に例文をまとめました。そのまま使えるものを選んでいますので、ぜひ参考にしてください。
個人情報・プライバシーを理由に断る場合
個人情報保護の観点から、その件についてはお答えいたしかねます。
お客様の個人情報に関わる内容のため、お答えいたしかねますことをご了承ください。
社内方針・契約上の理由で断る場合
社内規定により、詳細についてはお答えいたしかねます。
契約上の制約がございますため、その点についてはお答えいたしかねます。
現時点では答えられない場合
現時点では詳細が確定しておらず、お答えいたしかねる状況です。確定次第、改めてご連絡いたします。
現在確認中のため、今すぐのご回答はいたしかねます。今しばらくお時間をいただけますでしょうか。
担当外・権限外を理由に断る場合
その件は担当部署が異なるため、私からはお答えいたしかねます。担当者に確認のうえ、ご連絡いたします。
私の一存ではお答えいたしかねますので、上長に確認してからご返答いたします。
例文のポイントは、断るだけで終わらせないことです。「確認してからご連絡します」「担当者に引き継ぎます」といった次のアクションを一言添えるだけで、相手の印象が大きく変わります。
メールで使うときの書き方と文例
口頭と異なり、メールは文字として残るため、より丁寧な言葉選びが求められます。「お答えいたしかねます」をメールで使う際は、以下の三点を意識すると印象がよくなります。
- クッション言葉を冒頭に置く
- 断る理由を一言添える
- 可能な範囲での代替案や次のステップを示す
以下に、実際のメールで使える文例を紹介します。
取引先から詳細を聞かれた場合
お世話になっております。〇〇株式会社の△△です。
ご質問いただきありがとうございます。
誠に恐れ入りますが、ご照会の件につきましては、現時点では社内での検討が完了しておらず、お答えいたしかねる状況です。方針が確定次第、改めてご連絡いたします。ご不便をおかけして大変申し訳ございません。
引き続きよろしくお願いいたします。
個人情報に関する問い合わせを断る場合
お世話になっております。〇〇株式会社の△△です。
お問い合わせありがとうございます。
大変恐縮ですが、個人情報保護の観点から、ご質問の内容についてはお答えいたしかねます。何卒ご了承いただけますと幸いです。ご不明な点がございましたら、お気軽にご連絡ください。
どうぞよろしくお願いいたします。
どちらの文例も、「恐れ入りますが」「大変恐縮ですが」といったクッション言葉を断りの直前に置くことで、拒否感を和らげています。断りの文言だけを単独で書くと冷たい印象になりやすいため、前後の文で誠意を補うことが大切です。
断るときに印象を悪くしないコツ
「お答えいたしかねます」は丁寧な表現ですが、使い方によっては相手に冷たい印象を与えてしまうことがあります。同じ断りでも、伝え方を少し工夫するだけで相手の受け取り方が変わります。
理由を一言添える
断る理由がまったくないと、相手は「なぜ教えてもらえないのか」と不信感を持ちやすくなります。「個人情報保護の観点から」「社内規定により」「現時点では確認中のため」など、簡単な理由を一言添えるだけで、相手は納得しやすくなります。詳細を説明できない場合でも、理由の輪郭だけ示すことは十分可能です。
「できないこと」だけで終わらせない
「お答えいたしかねます」で完結させてしまうと、会話や関係がそこで途切れてしまいます。「担当者に確認のうえご連絡します」「〇〇についてはご案内できます」など、代替の対応や次のステップをセットで伝えると、相手に誠意が伝わります。
クッション言葉で衝撃を和らげる
「大変恐縮ですが」「誠に申し訳ございませんが」「恐れ入りますが」といったクッション言葉を断りの前に置くことで、言葉の硬さが和らぎます。特にメールでは、クッション言葉がないと文面が素っ気なく見えやすいため、意識して入れるようにしましょう。
電話の場合は声のトーンにも気を配る
メールと異なり、電話では声のトーンや間の取り方も伝わります。「お答えいたしかねます」と言う際は、早口にならず落ち着いたトーンで伝えることで、相手への配慮が言葉以上に伝わります。
言い換え表現まとめ
「お答えいたしかねます」以外にも、同じ意味で使える表現はいくつかあります。場面や文脈に応じて使い分けてみてください。
回答を差し控えさせていただきます
「答えない」という意思を丁寧に示す表現です。記者会見や公式なアナウンスなど、フォーマルな場面でよく使われます。やや硬い印象があるため、日常のビジネスメールよりも、公式文書や広報対応に向いています。
回答いたしかねます
「お答えいたしかねます」と意味はほぼ同じです。「お答え」が謙譲表現であるのに対し、「回答」は中立的な名詞のため、少し事務的な印象になります。社内向けの連絡や、簡潔に伝えたい場面で使いやすい表現です。
ご回答が難しい状況です
断言するよりもやわらかく伝えたいときに使える表現です。「かねます」系の表現よりも柔軟なニュアンスがあり、「今は難しいが、状況が変われば答えられるかもしれない」という含みを持たせたいときに適しています。
その件については申し上げられません
機密情報や答えてはいけない事項に対して使う表現です。「答えられない」ではなく「言えない」というニュアンスが強いため、情報管理が厳しい場面での使用に向いています。
使い分けの目安をひとことでまとめると、日常のビジネスメールや口頭対応には「お答えいたしかねます」、公式・フォーマルな場面には「回答を差し控えさせていただきます」が使いやすいでしょう。
まとめ
「お答えできかねます」について、この記事のポイントを整理します。
- 「お答えできかねます」は厳密には二重表現にあたるため、自分から使う場合は「お答えいたしかねます」を選ぶのが無難
- 三つの表現の使い分けは、社外・フォーマルな場面は「お答えいたしかねます」、社内・口頭は「お答えしかねます」が目安
- 断る際は、理由を一言添えて、次のアクションをセットで伝えると印象がよくなる
- メールでは、クッション言葉(「大変恐縮ですが」など)を断りの前に置くことで、言葉の硬さが和らぐ
- 公式・フォーマルな場面では「回答を差し控えさせていただきます」も使いやすい
答えられないことを伝えるのは、ビジネスでは避けられない場面のひとつです。表現の選び方と伝え方を少し意識するだけで、相手との関係を損なわずに丁寧に断ることができます。ぜひ今日から活用してみてください。

